東京都北区K様/2022年12月竣工
家族構成:ご夫婦・お母様・猫2匹
植物を愛する奥さまの夢を叶えるため、「中庭のある家」を建てることにしたK様。難しいと言われても諦めずに実現する方法を模索し、思い描いた暮らしを手に入れました。
光と風、そして豊かな緑が日常に寄り添う住まいには、互いの想いを尊重し合いながら、穏やかに時を重ねるご夫婦の姿があります。
今回はご主人に、その家づくりを振り返っていただきました。
角地に佇むK様邸。外観を彩るのは、奥さまが丹精込めて育てたたくさんの植物たち。インタビュー中、庭で収穫したばかりのブラックベリーを振る舞ってくださいました。
「緑を眺めながら食事をしたい」そんな奥さまの願いを形にしたのが、K様邸の象徴である中庭です。もともと園芸がお好きで、以前の住まいでは屋上に鉢を並べて楽しんでいたという奥さま。しかし屋上の緑は普段の生活の中で見られないため、もっと緑を身近に感じられたら…と考えていたそうです。
そんなとき、高齢のお母さまとの同居をきっかけに、建て替えの話が上がりました。
「私は家にあまりこだわりがなく、使いやすければ十分と思っていましたが、妻は色々と理想があったようです。これはもう最後の家づくりになるだろうと思ったので、せっかくなら妻の夢をすべて叶えた家にしたいと思いました。」
そう穏やかに語るご主人の言葉から、ご夫婦の温かな関係が伝わってきます。
ダイニングからは、季節や時間の移ろいを感じる緑豊かな中庭を望むことができます。日常の食卓も、心がほどける特別なひとときへと変わります。
K様の家づくりのテーマは、なんといっても「緑を感じる家」です。日当たりの良い3階に、LDKと園芸を楽しめる中庭を希望していました。
いくつかのハウスメーカーに相談し、「LDKの中心に中庭をつくりたい」と希望を伝えたものの、どの会社も「難しい」との回答でした。
「ハウスメーカーはある程度パターンが決まっているので、それを崩すのは難しいようでした。でもテラジマさんだけは『検討してみましょう』と言ってくれたんです。
希望を受け入れてもらえず、家が出来上がってから『やっぱり直したい』と思っても、なかなか難しいでしょう。だからこそ、私たちの要望をちゃんと聞いてくれて、実現しようと考えてくださる姿勢が嬉しかったですね。」
完成した3階のLDKは、中庭を囲むコの字型の形状。どこにいても中庭からの光と風、緑を感じることができる設計です。
「妻は中庭での園芸を楽しんでいます。夏の暑い日も真っ赤になりながら一生懸命手入れをしていて、その姿を見ていると『本当に夢を叶えられんだな』と感じます。」
階段とLDKを仕切るガラス扉。1階の玄関から書斎へと続くドアにも採用しています。
1階にはご主人の書斎兼奥さまの音楽室、2階に寝室と猫のスペース、3階にはLDKを配置。
「寝室以外はできるだけ間仕切りをなくしたいというのは、私も妻も同じ考えでした。猫がいるのでドアは必要なのですが、視線が抜けてより広く感じられるよう、ガラス扉を採用しました。」
愛猫の安全面に配慮しつつ開放感を損なわない工夫が、邸宅全体を明るく軽やかな印象にしています。
タイルの壁でゆるやかに仕切られた書斎兼ピアノ室。仕切り壁の奥には、2万冊もの蔵書が収められています。
1階の書斎には、元教員であるご主人の蔵書が収納されています。壁一面の本棚に、歴史書をはじめとする2万冊の本が整然と並ぶ様子は、まるで図書館のような圧巻の景色です。
「本がとにかく多いので、探しやすい収納にしたいとお願いしました。引っ越しの際に整理したのですが、住み始めて2年のあいだにまた増えて、もう一杯になってしまいましたね。
私は原稿を書いたり読書をしたり、妻はたまにピアノを弾いています。リビングなど一緒に過ごす場所とはまた違い、それぞれの趣味や仕事、ひとりで過ごす時間を楽しめる特別な場所です。」
愛猫と一緒にくつろげるセカンドリビング。前庭に面するように大きな窓を設け、猫が外の景色を眺められるようにしました。
「家づくりを成功させる秘訣は、要望をしっかり伝えることだと思います。『このくらいで伝わるだろう』ではなく、思っていることはすべて伝える。妻は細かいところまで『こうしたい』と具体的に伝えていました。テラジマアーキテクツはすぐに『それは難しいです』とは言わず、ちゃんと検討してくれます。後悔が残ることのないように、自分の想いをしっかりと伝えることが大切だと思います。」
かねてからの希望であった中庭をはじめ、細部に至るまで妥協せずに理想を追求した奥さまと、その想いに寄り添い続けたご主人。
ご夫婦で夢を実現させ、奥さまが手入れした緑が彩る中庭を眺めながら、食卓を囲む穏やかな時間を過ごしています。
コンサルタント:原 正一
設計:竹沢 孝浩
設計:林 優介
限られた建築条件の中で、敷地のポテンシャルを最大限に活かしたプランです。
その中でも前庭・中庭は、採光だけでなく、K様の趣味であるグリーンを楽しむことができる空間です。
緑に加え、様々なお花の色に囲まれた家を拝見し、この空間が家の象徴であると改めて感じました。
また、細部にまでこだわる奥様と、一歩引いた位置から温かく見守るご主人様、お二人のお人柄も非常に印象的です。
四季を通じて様々な表情に変わり続けるこの家を、これからも長くお楽しみください。